船舶の名義変更

被相続人が海に関係する仕事をしていた場合や、趣味でクルーザーやプレジャーボートを所有していた場合など、相続財産の中に「船舶」がある場合、船舶についても自動車や不動産と同様に名義変更の手続きをする必要がでてきます。

そんな船舶の相続手続きですが、被相続人が所有していた船舶をその引き続き相続人が使用していくケースと、廃船処分をしていくケースが考えられます。それぞれの手続きについて以下で解説していきます。

小型船舶の相続(名義変更)

小型船舶

海に近い地域では、相続財産の中に小型船舶が含まれていることも珍しくありません。小型船舶とは、総トン数20トン未満の船舶を指します。一般的に個人が所有する船舶であれば、そのほとんどが小型船舶に該当します。

小型船舶を相続により相続人が新たに取得した場合、日本小型船舶検査機構(JCI)に対して、小型船舶の所有権の移転登録を申請していきます。

相続による所有者変更に伴う移転登録の手続きは、新所有者(相続人)が行います。まずは、仮にその後誰かに売るとしても、いったん相続人名義に登録を変更する必要があります。

その際には、被相続人の死亡の事実が分かる住民票の除票や戸籍の附票、相続人の戸籍謄本等、相続人の住民票の写し、遺産分割による場合は遺産分割協議書とそこに押印した相続人全員の印鑑の印鑑証明書が必要になります。

その後、相続人から第三者に売買等により移転する場合は、譲渡人(相続人)は、新所有者に対し、譲渡証明書、印鑑証明書、船舶検査証書及び船舶検査手帳を交付し、買主名義に移転登録をします。

大型船舶の相続(名義変更)

大型船舶

大型船舶とは、総トン数20トン以上の日本船舶を指します。実際に、個人の方が大型船舶を所有していることは極めて稀なケースですが、よほどの船好きの被相続人であればありえる話ですが。

ただ、大型船舶は、見た目だけで判断することはかなり難しいため、遺産の資料の中から、総トン数が20トン以上であるのかどうかを確認してみてください。20トン未満であれば、小型船舶に該当します。

大型船舶には、所有権を公示する制度として「登記」と「登録」の2つが必要になります。まずは大型船舶を相続により新たに取得した場合は、登録に先立って①船籍港を管轄する法務局において、船舶所有権移転登記を申請する必要があります。そして、②管海官庁(運輸局)に対し、所有権の移転登録を申請します。

流れとしては、大型船舶の所有権移転は、①まず船舶登記を先に行い②その後に移転登録を行う、という2段階の手続きが必要になります。

漁船の相続(名義変更)

漁船の相続

漁師町など、被相続人が漁師さんの場合には、遺産の中に漁船があることも多いです。漁船登録は、上でご説明した小型船舶の登録とは違い、船舶を漁船として使用するために必要となる手続きです。

漁船登録は、登録を受けた漁船の所有者が死亡した場合には失効しますが、相続人がもう一度、漁船として使用するときは、改めて漁船登録をする必要があります。ちなみに、小型船舶の登録と、漁船登録を両方することはできません。

相続人が今後漁船として使用しない場合には、臨時船舶検査を受けて漁船以外の船舶へ変更し(小型船舶など)、漁船登録票を返納する必要があります。ただし、例外として12海里以内の水域限定で操業する総トン数20トン未満の小型漁船であれば、船舶検査を受ける必要はありません。

船舶の廃船手続き

船舶の場合は相続人がその船舶を今後も使用しないケースも多いことから、廃船処理を考え場合もあります。
相続財産として多いケースとしては、漁船やプレジャーボート等のいわゆる総トン数20トン以下の「小型船舶」になるかと思います。

船舶はいらないからと言って簡単に処分できるわけでもなく、そのまま放置しておくわけにもいきません。実は、日本にあるほとんどの小型船舶は、FRP(ガラス等強化プラスチック)構造で造船されており、処分する場合にも工夫が必要となってきます。

手続きの流れとしては、自動車の廃車手続きと似ていますが、まず廃船について登録機関に抹消申請をし、船舶の登録情報を抹消させます。そこから、廃棄物として処分することになります。

ただし、現行の廃棄物処理法では、船舶の使用や所属に応じて廃棄物の処理が以下のように変わります。

漁船産業廃棄物
プレジャーボートや水上バイク一般廃棄物


産業廃棄物であれば、処理場へ持ち込むか、もしくは産業廃棄物収集運搬業の許可業者へ運搬を依頼することになりますが、一般廃棄物となると、廃棄物が現存する地方自治体が処分権者となりますので、まずは自治体に相談します。


ただし、自治体としてもほとんど受け皿がないため、廃船処理にかなり時間を要する可能性が高いです。また、仮に地方自治体が船舶を引き取ったしても、結局のところ、産業廃棄物収集運搬業者へ業務を委託する形となります。

ここで問題になってくるのが廃棄費用です。
一般的な廃棄物に比べるとかなり高額な処理費用がとられることが多く、費用を捻出できないため結局ところ、そのまま放置されるケースがとても多いのが実情です。


業者に買い取ってもらえる場合はいいですが、廃棄になる場合には多額の費用が発生します。
業者の中には、分解して部品ごとに売ることができる専門業者もあるので、そういった業者に買取を依頼するのも一つの方法だと言えます。

どちらにしても、処分には多額の費用がかかるため、そのまま係留して不法投棄されてしまうケースがほとんどで、社会問題化しております。日本は大相続時代を迎え、今後このような問題がますます増加すると予想されます。

船舶の相続でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

記事監修者

ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
相続の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。

はじめまして、司法書士の中瀬です。
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