相続人の中に認知症の方がいるというのは珍しい事ではありません。物事を判断できる軽度な認知症であれば問題ないですが、重度の認知症や知的障害の場合、相続する権利はどうなってしまうのでしょうか? もちろん、相続人が認知症だとしても相続権はなくなりません。
認知症の相続人がいる場合
重度の認知症や知的障害の方が相続人の中にいた場合、預金口座の解約手続きや遺産分割協議をすることができません。相続に必要な書類を書くこともできません。判断能力がない状態の方が行った法律行為は無効となるからです。
そこで他の元気な相続人や兄弟姉妹などが、ついつい代わりに代筆して書いてしまうということが考えられますが、これは非常に危険な行為です。絶対に代筆はしないようにしてください。たとえ、実の子供が代わりに書いたとしても、私文書偽造の罪に問われる可能性があります。
親の字に似せて書けば問題ないだろうと思うかもしれませんが、不動産の相続登記をする場合、司法書士は必ず本人確認をしますので、判断能力に疑いがある状態では手続きを行なってくれませんし、銀行も最近ではかなり厳しいので認知症と判断されると預金を動かすことができなくなる可能性があります。
もし、認知症の母親が相続人になった場合には、次の2種類の方法が考えられます。
- 相続財産を分割しないままにしておく(その相続人が亡くなってから、その方の相続人が分割する)
- 成年後見を利用して成年後見人が法定相続分で遺産分割をする方法
成年後見制度について
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神疾患などで判断能力が不十分になり自分で財産の管理や法律行為を行えない人が生活をしていく上で不利益にならないように、本人の代わりに財産を管理したり、必要な契約を行ったりする代理人を付けてもらう制度のことです。たとえば、悪質な業者に詐欺被害に合って多額の契約をしてしまったりすることを防ぐ効果もあります。
その本人の代わりに代理人として選ばれる人を「成年後見人」といいます。成年後見制度には2種類あり、本人の判断能力が低下する前からできる「任意後見制度」と、本人の判断能力が衰えた後に行う「法定後見制度」があります。また、法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3種類があります。
任意後見制度について
任意後見は、認知症などにより、ご自身の判断能力が低下する前にあらかじめ、自由に後見人候補者を選んでおきます。そして、いざ判断能力が低下した場合に任意後見がスタートしていきます。ご自身の信頼できる家族などに後見業務を任せることができるのが最大のメリットです。
法定後見制度について
法定後見は、判断能力が実際に不十分になってしまった状態に利用する制度です。任意後見と違い後見人は裁判所が選任します。こちらの希望する候補者を挙げることが可能ですが、相続人との関係性や財産の額によって、裁判所が不相当だと判断した場合は選任されません。誰を選任するかは全て裁判所の判断に委ねられてしまいます。
候補者がいない場合は、司法書士などの専門家が法定後見人に選任されます。成年後見人が就くと、これからは裁判所の監督のもと、後見人が本人に代わって財産を管理していきます。
後見人が就いた後は、本人であっても自由に財産を処分することはできなくなりますし、親族も後見人の同意なく本人の財産を処分することができなくなります。
また、本人が単独で行った法律行為で詐欺被害などにあった場合には、成年後見人が取り消すことができます。
成年後見の注意点
気を付ける必要があるのが、こちらが希望する候補者が選ばれなかったとしても、一度申し立ててしまうと「やっぱりやめます」とはいかないところです。
まだ、家庭裁判所の審判が行われる前であれば申立てを取り下げることもできますが、それでも家庭裁判所の許可が必要になります。また、成年後見人は一度就任すると簡単に自分から辞めることもできませんし、後見人が気に入らないからと言ってそれだけの理由で親族が辞めさせることもできません。
そのため、成年後見制度は本人を守る制度として非常に有用な制度ですが、この制度を利用する前に一度よく検討する必要もあります。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
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はじめまして、司法書士の中瀬です。
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