相続は、誰もが人生で1度や2度は経験します。しかし、人生でその程度しか直面する機会が少ない出来事でもあります。人はいつか亡くなる時が訪れ、故人が持っていら財産はその相続人達に受け継がれていきます。
相続や遺言という言葉は、近年ではテレビやニュースでもよく聞く話題の1つになりました。それだけ少子高齢化が進んでいる証拠です。
知人との会話の中で相続の話題になったとき、どこか他人事のような気がして、なかなか実感が湧きづらい問題でもあります。しかし、相続の知識も最低限の基礎知識は身につけておいて損はありません。
相続の知識を全く知らないまま、いざその時をむかえると何をしてよいのか分からず慌てふためいてしまいます。円満な相続をむかえるためにも、相続の基礎知識を身につけておいてください。
相続の基礎①:遺産の分け方について
亡くなった方の遺産を分ける際のやり方として基本的に2つのパターンがあります。
それは、遺言書の有無によって変わります。遺言書がある場合、その内容通りに遺産を分けますが、遺言書がない場合は相続人全員での話し合い、遺産分割協議で遺産の分け方を決めていきます。
大変多い誤解としては「遺産は法定相続分通りに分けなければならない」というものです。このことは大きな誤解です。もちろん、相続人同士で何も取り決めをしなければ、民法の法定相続分で相続人が取得することになります。
遺産は配偶者が2分の1、子供が2分の1を相続するという話を聞いたことがある方が多いと思いますが、この割合のことを法定相続分と呼び、法定相続分は、分け方の目安として国が法律で定めているものです。これはあくまで目安ですので、強制力はありません。
そのため、どんな分け方をしても相続人の全員の同意さえあれば自由に決めていいのです。
相続の基礎②:相続人になる人は?
遺産を相続できるのは、相続権を持つ人のみです。この相続権を持つ人とは相続人のことです。
まずどのような家族構成だとしても、配偶者は必ず相続人になります。
そして子供がいれば子供も相続人になり、この場合の法定相続分は、配偶者2分の1、子供が2分の1。子供が2人以上いる場合は2分の1を子供の数で割ります。子供が3人いる場合はそれぞれ6分の1ずつとなります。
子供には、養子も含みます。養子は実子と全く同じ相続権を持ちます。離婚した配偶者との間にできた子供も相続人になります。
亡くなった方に子供がいなければ、相続人は配偶者と直系尊属になります。直系尊属とは亡くなった人から見て、親や祖父母のことを指します。その場合の法定相続分は配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。
もし子供がおらず、両親や祖父母も他界している場合は、兄弟姉妹が相続人となります。その場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
このように相続人は民法という法律で厳格に決められております。
別のパターンで、相続人になるはずだった子が先に亡くなっている場合、その子(孫)が相続の権利を持ちます。これを代襲相続といい、孫が相続人となる場合です。
なお兄弟姉妹が相続人となる場合、その兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、甥と姪に代襲相続されます。結果、相続人の数が非常に多くなることも珍しくないです。
しかし、相続人全員が同意すれば、相続人以外の人にも遺産を相続させることができるわけではありません。例えば、内縁の妻にも遺産を相続させてあげたい、と相続人全員が同意をしたとしても、法律上、内縁の妻は相続人にはなれません。
相続人以外の人に財産を残す方法
相続人以外の人に財産を残したいのであれば、4つの方法があります。
- 遺言書を作成
- 生前中に贈与しておく
- 生命保険の受取人にしておく
- 相続人がいったん相続し、生前贈与をする
生前贈与とは、亡くなる前に財産を無償であげる行為です。
相続人でない人に対しても行うことができます。相続人がいったん相続して生前贈与するパターンでは、相続人の心変わりで実現されない可能性があります。相続人が相続税を払ったうえに、贈与税の負担まで発生する可能性があるので避けたほうが無難だと思われます。
相続の基礎③:遺言書を書くとき注意点
遺言書がない場合、相続人全員の同意がないと遺産の分け方を決めることができません。どうしても折り合いがつかない場合、調停や審判で分け方を決めます。しかし遺言書さえあれば、基本的には遺言書通りに遺産を分けていくことになりスムーズに手続きが行われる可能性が高いです。
遺言書でも手が出せない権利がある
遺言書があったとしても、相続人1人1人には遺留分という制度があり、どれだけでも自由に遺産を分けられるわけではありません。
「遺留分」とは、残された家族の生活を保障するために、最低限お金額は必ず相続できますという権利です。
遺留分は相続人が持つ権利です
例えば遺言書に、「長男は親不孝だったので1円も相続させない」と書いてあったとして、その内容に長男が納得するなら問題はありません。しかし、「納得できない状態で、俺には遺留分という権利があるから遺産を相続させてほしい」と主張があった場合、長男は最低限保障されている金額を相続できます。遺留分はあくまで権利ですから、行使するかどうかはその人次第になります。
遺留分の保証額について
遺留分は相続人が直系尊属のみの場合を除き、法定相続分の半分です。
相続人が配偶者と子供3人であれば、配偶者の法定相続分は2分の1なので、その半分の4分の1が遺留分になります。子供の法定相続分は2分の1、それを子供の人数3人で割るので1人あたり6分の1になります。遺留分は法定相続分の半分なので12分の1となります。
そして兄弟姉妹には遺留分がありません。亡くなった方と兄弟姉妹は別生計であることが一般的で、遺産を相続できなくても生活に困ることはないと考えられているためです。そのことから子供のいない夫婦においては、全財産を妻(夫)に相続させるという遺言書があれば、他の兄弟姉妹から、遺産を相続させてくれと主張されたとしても、法的な効力は一切ありません。
遺言書があれば、自分の気持ち通りに遺産の分け方を決めることができますが、遺留分だけは侵すことができない権利だということを覚えておきましょう。
相続の基礎④:不動産の相続登記について
遺産の中に不動産が含まれている場合は、相続登記(相続不動産の名義変更)が必要になります。相続登記とは、不動産の名義人に相続が発生したことにより相続人に名義を変更する手続きのことです。
相続登記は現在のところ義務ではないので、そのまま放置してしまう方もおられますが、2024年より長らく続いた空き家問題を解消するため、相続登記が義務化されることになりました。
相続登記の義務化にかかわらず、相続登記をせずに放っておくと、2次相続、3次相続と発生すると相続関係が複雑になっていきます。
気づけば相続人が全国あちこちに散らばっていて、共有者が何十人にもなっているなんて事態も起こり得ます。そのため、できるだけ早いうちに相続登記を済ませてしまった方が後が安心です。
相続登記のことでお悩みの方は、お近くの法務局または司法書士にご相談されるのがおすすめです。
相続の基礎⑤:相続税について
相続と聞くと真っ先に相続税のことを心配される方も多いですが、相続税が発生する人は全体の8%程と言われています。
相続税の額ですが、例えば、法定相続分で相続したと仮定して、遺産総額1億円、相続人が配偶者と子供2人の場合の相続税は、家族全体で315万円です。遺産全体からすると約3%の負担です。
2億円だった場合でも、家族全体で1350万円、遺産全体の約7%です。
まず、相続税は、亡くなった全ての方に課税されるわけではありません。
一定額以上の遺産を残して亡くなった方にだけ課税される税金です。
その一定額のことを基礎控除と呼び、「3000万円+600万円×法定相続人の数」という算式で計算します。
例えば、亡くなった方の相続人が、配偶者と子供2人の計3人だったとします。この場合、法定相続人の数は3です。
上記の算式に当てはめると、
3000万円+(600万円×3)=4800万円
基礎控除は4800万円になります。この方の遺産が4800万円を超えているのであれば、相続税の申告をして併せて相続税の納税が必要となります。相続税の申告期限は、亡くなった日から10ヶ月以内です。
もし遺産が基礎控除の4800万円以下だったら、相続税は一切かからず、申告も不要です。
相続税がかかるかどうか不安な方はお近くの税務署や税理士に相談してみるのもおすすめです。
このような計算で算出し見ていきますと、相続税を払っている人の割合は、100人中8人に過ぎません。
ポイントとしては、遺産から基礎控除を引いた金額に相続税がかかるということを覚えておくと便利です。
また、遺産の多くが不動産で遺産分けが難航していている場合、相続税は現金で納付しなければならないため、ご注意ください。
まとめ
相続の基礎知識として、
- 法定相続分はあくまで目安なので、相続人全員の同意があれば分け方は自由。
- 遺産を相続できるのは相続人だけ!
- 遺言書があれば自由に分け方を決めることができるが、遺留分は侵害できない
- 遺産に不動産がある場合は、相続登記を忘れずに!
- 遺産があっても基礎控除を超えなければ相続税は発生しない!
以上、相続の基本についてお話ししました。相続はいざ発生すると慣れない出来事のため、何をしていいのか分からなくなり、不安が押し寄せてきます。あらかじめ少しでも相続の知識をつけておくことでいざというときに焦ることなく対応できるようになります。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
相続の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。
はじめまして、司法書士の中瀬です。
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