「家族信託に興味はあるけれど、司法書士などの専門家に依頼すると費用がかかる。自分たちだけで手続きを進めることはできないだろうか。」インターネットで家族信託について調べていると、こうした疑問にたどり着く方は少なくありません。結論からお伝えすると、家族信託は法律上、司法書士などの専門家に依頼しなくても、家族だけで手続きを進めること自体は可能です。契約書のひな形はインターネット上でも入手でき、公証役場や法務局の窓口でも一定の案内は受けられます。しかし「自分でできる」ことと「自分で行って安全に機能する」ことの間には、実は大きな隔たりがあります。家族信託は、財産管理や相続に直結する重要な契約であり、内容に不備があった場合、数年後、あるいは委託者の判断能力が低下した後になって初めて問題が表面化するケースが少なくありません。本記事では、家族信託を自分で行う場合の具体的な手続きの流れと、そこに潜むリスクを整理したうえで、司法書士に依頼することでどのようなメリットが得られるのかを詳しく解説していきます。

そもそも家族信託とはどのような制度?

家族信託とは、委託者(財産を持つ本人)が、信頼できる家族を受託者として指定し、その受託者に対して不動産や預貯金などの財産の管理・運用・処分を任せる仕組みです。委託者の判断能力が低下する前の元気なうちに契約を結んでおくことで、将来認知症などにより判断能力が低下した後も、受託者があらかじめ定めた契約内容に沿って財産を柔軟に管理できるようになります。成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可をその都度得る必要がなく、不動産の売却や資産の組み換えといった積極的な財産活用がしやすい点が大きな特徴です。また、遺言と同様に、委託者が亡くなった後の財産の承継先をあらかじめ指定できる機能も持ち合わせており、認知症対策と相続対策を同時に実現できる制度として、近年注目が高まっています。

家族信託を自分で手続きすることは法律上可能

家族信託は、法律上、司法書士や弁護士といった専門家に依頼することが義務付けられている手続きではありません。信託法という法律に基づく私的な契約であるため、当事者となる家族間で合意ができれば、契約書を自分たちで作成し、手続きを進めること自体は可能です。実際に、インターネット上には家族信託契約書のひな形やテンプレートが公開されており、それらを参考にしながら自分たちで契約書を作成しようとする方も一定数いらっしゃいます。しかし、家族信託は不動産登記や税務、将来の相続にまで影響が及ぶ複合的な制度であり、契約書のひな形をそのまま使うだけでは、ご家庭固有の事情に対応しきれないケースがほとんどです。「法律上できる」ということと、「その家庭にとって適切な内容で、将来にわたって問題なく機能する契約が組めるか」は、まったく別の問題であるという点を、まず理解しておく必要があります。

家族信託を自分で行う場合の手続きの流れ

家族信託を自分で行う場合、一般的には以下のようなステップを踏んで手続きを進めていくことになります。それぞれの段階でどのような判断や作業が必要になるのかを見ていきましょう。

家族信託の目的と信託する財産を決める

まず最初に行うべきは、「何のために家族信託を利用するのか」という目的を明確にすることです。認知症になった際の財産凍結を防ぎたいのか、特定の不動産の管理を子どもに任せたいのか、あるいは将来の相続トラブルを予防したいのか、目的によって契約内容の設計は大きく変わってきます。あわせて、預貯金・不動産・有価証券など、どの財産を信託の対象に含めるかを具体的に決めていく必要があります。信託財産に含めるかどうかの判断を誤ると、後になって「この財産は信託の対象外だったため、結局家族が自由に動かせなかった」といった事態にもつながりかねません。

委託者・受託者・受益者を決める

次に、財産を託す本人である「委託者」、財産の管理を任される「受託者」、信託から利益を受け取る「受益者」を決定します。多くの家族信託では、委託者本人が当初の受益者を兼ねる形(自益信託)が一般的ですが、家族構成や将来の希望によっては受益者の設計を工夫する必要がある場合もあります。受託者を誰にするかは特に重要な判断であり、財産管理の実務を担えるだけの信頼性や継続性が求められます。複数の子どもがいる場合、受託者を誰にするかをめぐって家族間の意見が分かれることも少なくありません。

家族信託契約書を自分で作成する

当事者と信託財産が決まったら、いよいよ信託契約書を作成する段階に入ります。契約書には、信託の目的、信託財産の詳細、受託者の権限の範囲、財産の管理方法、信託の終了事由、残余財産の帰属先など、多岐にわたる項目を漏れなく定めておく必要があります。インターネット上のひな形を参考にすることは可能ですが、ひな形はあくまで一般的なケースを想定したものであり、ご家庭固有の事情(複数の不動産がある、将来的に受益者を変更したい、特定の相続人に配慮したいなど)に対応した内容にカスタマイズするには、相応の専門知識が求められます。

公証役場で信託契約書を公正証書にする

作成した信託契約書は、法律上は必ずしも公正証書にしなければならないわけではありませんが、契約内容の証明力を高め、後々の紛争を防ぐ観点から、公正証書として作成するのが一般的です。また、後に信託口口座を開設する場合には、信託契約書を公正証書で作成を求められることがほとんどです。公正証書化するためには、公証役場に契約書案を持ち込み、公証人による内容確認を経る必要があります。公証人はあくまで契約の形式面や法的な有効性を確認する立場であり、その家庭にとって内容が最適かどうかまで踏み込んでアドバイスしてくれるわけではない点には注意が必要です。

信託専用口座を開設する

信託財産に金銭を含める場合、受託者は「信託口口座」または「信託専用口座」と呼ばれる、信託財産であることが明確にわかる口座で金銭を管理する必要があります。信託財産である金銭が受託者個人の財産と混同されてしまうと、信託の実効性が損なわれるだけでなく、受託者の相続が発生した際に信託財産が受託者自身の遺産と誤って扱われてしまうリスクも生じます。信託口口座の開設には、司法書士などの専門家が作成した契約書の提出を求められることがほとんどですので、ご自身で家族信託を進める場合には、多くの場合、信託専用口座で進める形になります。

不動産がある場合は信託登記を申請する

信託財産に不動産が含まれる場合は、法務局に対して信託を原因とする所有権移転登記および信託登記を申請する必要があります。この登記により、当該不動産が信託財産であることが公示され、第三者に対しても信託の効力を主張できるようになります。登記申請には、登記原因証明情報や信託目録に記載する内容など、専門的な書類作成が必要であり、記載内容に誤りがあると、登記が受理されなかったり、後になって訂正が必要になったりする可能性があります。

家族信託を自分で行うメリット

家族信託を自分たちだけで行う最大のメリットは、専門家への報酬が発生しないため、費用を大幅に抑えられるという点です。司法書士に依頼する場合、契約書作成や登記手続きに対する専門家報酬が発生しますが、自分たちで手続きを進めれば、実費(公証役場の手数料や登録免許税など)のみで済ませることも理論上は可能です。また、家族だけで話し合いながら進めることで、契約内容について家族全員が主体的に理解を深められるという側面もあります。しかし、こうしたメリットは、後述するリスクと天秤にかけたうえで慎重に判断する必要があります。特に家族信託は、契約時点では問題が表面化しにくく、数年後、委託者の判断能力が低下してから初めて不備が発覚するケースが多いという特殊な性質を持つ制度であることを念頭に置く必要があります。

家族信託を自分で行う場合のリスクと注意点

家族信託を自分で行う場合には、専門知識の不足に起因するさまざまなリスクが伴います。ここでは特に注意すべき4つのポイントを詳しく解説します。

契約内容に不備があると希望どおりに財産を管理できない

家族信託契約書は、一度公正証書として作成すると、内容を変更するには改めて手続きが必要になり、簡単には修正できません。もし契約書の内容に不備があった場合、たとえば「想定していた財産が信託の対象に含まれていなかった」「受託者の権限の範囲があいまいで、必要な財産処分ができない」といった事態が、委託者の判断能力が低下した後になって発覚することがあります。この段階では、委託者本人の意思確認ができないため契約内容を修正することが極めて困難になり、結果として家族信託を組んだ本来の目的が果たせなくなってしまうリスクがあります。

税金や遺留分などの問題を見落とす可能性がある

家族信託は財産管理・承継に関する制度であるため、相続税・贈与税といった税務上の影響や、他の相続人の遺留分への配慮を欠かすことができません。専門知識がないまま契約内容を設計してしまうと、意図せず特定の相続人に不利益が生じるような信託契約になってしまい、将来、遺留分侵害額請求などの紛争に発展するリスクがあります。また、信託の設計次第では、想定していなかった税負担が生じる可能性もあり、税務面の検討を欠いたまま手続きを進めることは大きなリスクを伴います。

金融機関で信託口口座を開設できない場合がある

信託専用の口座(信託口口座)は、すべての金融機関で自由に開設できるわけではなく、金融機関によって対応の可否や求められる契約書の要件が異なります。自分たちで作成した契約書の内容が、金融機関が求める要件を満たしていない場合、いざ口座を開設しようとした段階で「この契約書の内容では口座を開設できません」と断られてしまうケースが実際に発生しています。この場合、契約書を修正するか、公正証書を作り直す必要が生じ、余計な時間と手間、場合によっては追加費用がかかってしまいます。信託口口座を扱っている銀行の多くは、「専門家の作成した契約書であること」、「公正証書で作成すること」の2つを口座開設の条件にしています。

不動産の信託登記には専門的な知識が必要

不動産を信託財産に含める場合の信託登記は、通常の名義変更登記とは異なり、信託目録という特殊な書類を作成し、信託の内容を登記簿に正確に反映させる必要があります。記載内容に不備があると、法務局から補正を求められたり、最悪の場合、申請が受理されなかったりすることもあります。不動産登記は司法書士の専門分野であり、法律上は本人が申請することも可能ですが、実務上は高度な専門知識が求められる分野です。

家族信託を司法書士に依頼するメリット

家族信託を司法書士に依頼する最大のメリットは、法律・登記の専門家として、ご家庭の状況に合わせたオーダーメイドの契約設計を受けられる点にあります。司法書士は、これまで数多くの家族信託契約の作成や不動産登記を手がけてきた実務経験をもとに、将来起こり得るトラブルを想定した契約内容を提案することができます。また、金融機関ごとの信託口口座の開設要件を踏まえた契約書作成が可能なため、「口座が開設できない」といった事態を未然に防ぐことができます。税務面で専門的な判断が必要な場合には、提携する税理士と連携しながら対応できる点も、専門家に依頼する大きな安心材料です。さらに、不動産の信託登記についても、司法書士が窓口となって正確かつ迅速に手続きを進められるため、契約作成から登記完了までを一貫して任せられるという点も見逃せないメリットといえるでしょう。

家族信託を司法書士に依頼した場合の費用相場

家族信託を司法書士に依頼する場合の費用は、信託財産の内容や評価額、契約の複雑さによって異なりますが、一般的には信託契約書の作成およびコンサルティング費用として数十万円程度、これに加えて不動産がある場合は信託登記に関する登録免許税や司法書士報酬が別途発生します。また、公正証書として作成する場合は、信託財産の金額に応じた公証役場の手数料も必要です。決して安い費用ではありませんが、契約内容の不備によって将来生じ得るトラブルや、手続きのやり直しにかかる時間・費用と比較すると、最初の段階で専門家に依頼して確実な契約を組んでおくことは、結果的に安心とコストの両面で合理的な選択だといえます。正確な費用については、財産の内容によって個別に見積もりが必要となるため、無料相談などを利用して確認することをおすすめします。

家族信託を自分でできるケースと司法書士に依頼すべきケース

家族信託の内容が非常にシンプルで、信託財産が少額の預貯金のみであり、家族関係も良好で将来的な争いのリスクがほとんど想定されない場合には、自分たちで手続きを進めることも不現実ではないかもしれません。そのうえで、信託専用口座で信託財産をしっかり管理していく必要があります。しかし実際には、不動産を信託財産に含めるケース、複数の相続人がいて将来の遺産分割に配慮が必要なケース、収益不動産の管理や事業承継を伴うケース、あるいは特定の相続人により多くの財産を承継させたいといった希望があるケースなど、多くの家族信託はある程度複雑な事情を抱えています。こうしたケースでは、専門知識のないまま手続きを進めることで、将来重大な不備が発覚するリスクが高くなります。少しでも「うちの場合はどうなのだろう」と迷う要素がある場合は、自己判断で進める前に、一度司法書士の無料相談を利用し、専門家の目から見て問題がないかを確認しておくことを強くおすすめします。

家族信託を依頼する司法書士の選び方

家族信託を依頼する司法書士を選ぶ際には、いくつかの確認しておきたいポイントがあります。まず、家族信託や相続に関する取り扱い実績が豊富かどうかは重要な判断材料です。家族信託は比較的新しい制度であり、事務所によって取り扱い経験に差があるため、これまでどの程度の件数を扱ってきたかを確認するとよいでしょう。また、契約書作成だけでなく、不動産の信託登記まで一貫して対応できるか、税理士や弁護士など他の専門家と連携できる体制が整っているかも大切なポイントです。加えて、費用体系が明確に提示されているか、無料相談の段階で親身に状況をヒアリングしてくれるかどうかも、信頼できる司法書士を見極めるうえで参考になります。複数の事務所の無料相談を比較検討したうえで、ご自身やご家族が安心して任せられると感じる司法書士を選ぶことが、家族信託を成功させるための重要な第一歩となります。

まとめ|家族信託は自分でもできるが専門家への相談がおすすめ

家族信託は、法律上、家族だけで手続きを進めること自体は可能な制度です。しかし、契約内容に不備があった場合、その影響が表面化するのは多くの場合、委託者の判断能力が低下した後であり、その時点では契約内容を修正することが極めて難しいという特殊なリスクを抱えています。税金や遺留分への配慮、金融機関ごとの信託口口座の要件、不動産の信託登記など、専門知識が求められる場面は数多く存在し、自己流で手続きを進めることで、将来「思っていたとおりに機能しなかった」という事態に陥る可能性は決して低くありません。家族信託は、一度契約を結んだら長期間にわたって家族の生活と財産を支え続ける重要な仕組みです。だからこそ、費用を抑えることだけを優先するのではなく、まずは司法書士などの専門家の無料相談を活用し、専門家の視点からご家庭にとって最適な設計を確認したうえで手続きを進めることを強くおすすめします。

記事監修者

ローワン綜合法務事務所の司法書士・ 中瀬雄太です。
相続や家族信託の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。

はじめまして、司法書士の中瀬です。
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