「死亡届を出すと、亡くなった人の銀行口座が凍結されてしまうから、どうしよう…」
こんな心配をされる方もいらっしゃると思います。
死亡届は、届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内に役所に提出しなければなりません。
口座名義人が亡くなって、口座のある金融機関がそのことを把握すると、亡くなった方の名義の口座は凍結されます。口座が凍結されると、それ以降は、預金の引出し、預け入れ、振込み、引落しといった手続はまったくできなくなります。
しかし、死亡届を出しても役場から金融機関に連絡されることはありません。そのため、死亡届を出したことによって預金口座が凍結されることもありません。
さて、被相続人と同居しているご家族などは、生前に口座からお金の管理を被相続人から頼まれるなどして暗証番号を知っていることも多いでしょう。その場合、被相続人が亡くなった後、葬儀費用など当座の費用に充てるためにキャッシュカードを利用して被相続人名義の口座から預金の引き出しをするケースは少なくありません。
亡くなった方の預金を勝手に引き出しても大丈夫?
親族が勝手に引き出しても罪になる可能性は低い
相続人が死亡した人の預金を一定程度、勝手におろしても、刑事上の罪に問われることはまずありません。
単独で預金の払い戻しをしても、窃盗罪や横領罪などの犯罪に問われる可能性は低いです。親族間の財産上の紛争については親族間での解決に委ねるのが相当と日本では考えられています。これを親族相盗例といい、そのため刑事事件として立件されないケースがほとんどです。
しかし、後に他の相続人から不正に引き出したと責任の追及を受けるおそれがありますので注意が必要です。直接、罪に問われなかったとしても相続人同士のトラブルに発展して、その後の相続手続きが難航する可能性もあります。
ここで、あらかじめトラブルになりやすいパターンを知っておきましょう。
他の相続人との間でトラブルになりやすい
相続人同士のトラブルが発展すると、ほかの相続人から不当利得返還請求をされる可能性や、不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。遺産分割する前に預金を引き出す方法はあるため、自分の独断だけで預金をおろさないようにしましょう。おろす前に必ず他の共同相続人の同意を取るようにしてください。
また、おろしたお金を葬儀費用といった遺産から支出しても構わないものの支払いに充てた場合は、必ず領収書を取っておいて、自分のために使ったものではないことを証明できるようにしておきましょう。何のためにいくらおろして、何にいくら使ったのかが分かるように記録しておくことも大事です。
相続分の範囲内での出金であれば、自身の取り分から先払いを受けたものとして精算できるため、トラブルになりにくいといえます。
しかし、相続分を超えて出金した場合には、他の相続人から「なんで勝手に人の相続分まで手を出したのか?」「後からちゃんと返金してくれるのか?」などと責任追及され、後にトラブルになる可能性は十分あります。特に普段から相続人同士で意思疎通がとれていない場合には要注意です。。
そのため、葬儀費用などに充てるために引き出す必要があるとしても、必要最小限度の引き出しに止めておくことが望ましいです。
「入院費として○○病院に〇〇円支払った」、「葬儀費用として〇〇社に〇〇円支払った」など使い道を明確に説明することができれば、他の相続人も納得しやすいといえます。
しかし、「被相続人のための費用に充てたが、何の費用に充てたのかよく覚えていない」など使い道を明確に説明できなければ、他の相続人から「自分の生活費のために預金をおろしたのではないか」と疑われ、トラブルになりやすいです。
まとめますと、葬儀費用等で必要なお金をおろす場合には、他の相続人に一言伝えておき、必要最小限の引き出しに止めておき、使い道をあとから説明ができるように、請求書や領収書、メモを残しておくことをお勧めします。
単純承認になってしまうリスクがある
遺産から引き出したお金を自分のために使ってしまうと、相続を単純承認したことになります。これを法定単純承認といいます。後日、遺産を調査した結果、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きかったことが発覚した場合に、いざ相続放棄をしようと思っても、一度単純承認してしまうと、相続放棄ができないため注意しましょう。
相続開始御は原則として3ヶ月以内に、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のうちのどれかを選択することになります。「相続財産の処分」にあたる行為をしてしまうと法定単純承認といって単純承認したものとみなされます。
被相続人の預金の引き出しは「相続財産の処分」にあたるので法定単純承認にあたる可能性が高くなります。
葬儀費用のための引き出しは法定単純承認になる?
葬儀費用の支出は、上記の「相続財産の処分をしたとき」に該当するかが問題となります。
この問題については、裁判例や学説でも、一定の範囲内については法定単純承認とはならないとしています。
大阪高決平成14年7月3日
「被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。」としており、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」には当たらないと判示しています。
なお、同大阪高決では、相続財産で仏壇や墓石を購入したことも、単純承認とはならないとしているのは非常に参考になるところです。
以上から明確な基準は示されていませんが、被相続人が死亡した場合に、相続財産から葬儀費用を支出した場合でも、相続放棄は認められる可能性があります。葬儀費用には平均の相場みたいなものがあるので、明らかに相場とかけ離れた金額を支出している場合には注意が必要です。
もっとも、事案によっては認められない可能性もあることも頭にいれておいてください。
まとめ
役所に死亡届を提出しても金融機関に情報共有されるわけではないため、親族などが直接金融機関に死亡の事実を伝えたタイミングで凍結されることが多いでしょう。なお、凍結される前にキャッシュカードなどを利用して出金しても必ずしも違法ではありません。
金融機関は、預金者が亡くなったことがわかるとその預金者名義の口座を凍結するため、それ以降は出金や振り込みなどができなくなります。
相続放棄や限定承認をお考えの方は、不必要な金額をおろしてしまうと、「相続財産の処分」にあたり、法定単純承認になってしまう可能性もあるので、注意するようにしてください。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
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