
亡くなった方の自動車にローンが残っている場合の相続手続きを解説します。車検証の確認方法、所有権留保、名義変更、売却、相続放棄の注意点を分かりやすく紹介します。
家族が亡くなり、使用していた自動車にローンが残っている場合、「このまま乗り続けられるのか」「名義変更や売却はできるのか」と悩む方は少なくありません。
ローン中の自動車は、車検証上の所有者やローン契約の内容によって手続きが大きく異なります。勝手に名義変更や売却をすると問題になる可能性があるため、まずは車検証とローン契約を確認しましょう。
まずは車検証の「所有者」を確認する
最初に準備するものは、亡くなった方が使用していた自動車の車検証です。
車検証には、主に次の2つの名義が記録されています。
- 所有者:自動車の所有権を持つ人・会社
- 使用者:実際に自動車を使用する人
現金で購入した場合などは、所有者と使用者が同じ人になっていることが一般的です。一方、ディーラーや信販会社のローンを利用している場合は、所有者が信販会社や自動車販売店、使用者が購入者となっていることがあります。
電子車検証では、券面だけでは所有者情報を確認できないことがあるため、「自動車検査証記録事項」や車検証閲覧アプリも確認してください。
所有権留保とは
ローンを完済するまで、信販会社や販売店が自動車の所有権を持つ仕組みを「所有権留保」といいます。支払いが終わるまでは、原則として使用者の判断だけで自動車を売却したり、別の人へ名義変更したりすることはできません。
車検証上の所有者がローン会社などの第三者である場合、自動車そのものについて、亡くなった方から相続人への相続移転登録が発生するわけではありません。ただし、ローン契約上の支払義務などは別に確認する必要があります。
ローン中の自動車を相続するときの基本的な流れ
ローンが残っている自動車が見つかった場合は、次の順番で手続きを進めます。
1.ローン会社へ死亡の連絡をする
ローン会社やディーラーへ契約者が亡くなったことを伝え、次の事項を確認します。
- ローンの残高
- 今後の返済方法
- 一括返済が必要か
- 相続人による支払い継続が可能か
- 自動車を返却できるか
- 所有権解除に必要な書類
- 死亡時の債務免除や保険の有無
契約者が亡くなった場合の取り扱いは、ローン会社や契約内容によって異なります。一括返済、支払いの継続、所有権解除など、複数の選択肢を設けている会社もあります。

2.車を残すか手放すかを決める
残債や自動車の査定額を確認したうえで、相続人間で次のいずれにするか話し合います。
| 希望する対応 | 主な手続き |
|---|---|
| 相続人が乗り続ける | ローン会社への相談、再審査、名義変更 |
| 一括返済する | 完済後に所有権留保を解除 |
| 車を売却する | ローン会社の承諾、残債の清算 |
| 車を返却する | 引取り後の売却代金を残債へ充当 |
| ローンを含めて相続したくない | 家庭裁判所で相続放棄を検討 |
自動車の査定額がローン残高を上回るとは限りません。売却代金を充てても残債が残る場合は、その残額について返済が必要になる可能性があります。
相続人が自動車を引き続き使用したい場合
特定の相続人が自動車を使い続けたい場合は、まずローン会社へ相談します。
相続人がローンを引き継げるとは限らない
亡くなった方と相続人は別人であるため、相続人がそのまま同じ分割条件で返済を続けられるとは限りません。
ローン会社によっては、引継ぎを希望する相続人に対して返済能力の審査を行い、審査後に新たな契約を締結することがあります。審査結果によっては、分割払いの継続が認められず、一括返済を求められることもあります。
すぐに名義変更したい場合
車検証上の所有者が信販会社やディーラーである場合、相続人だけで所有者を変更することはできません。
一般的には、次のような流れになります。
- ローンの残額を一括返済する
- ローン会社へ所有権解除を申し込む
- 譲渡証明書や委任状などを受け取る
- 相続人への名義変更手続きを行う
必要書類や申請方法はローン会社によって異なるため、一括返済をする前に手続きの流れを確認しておきましょう。
完済しているのに所有者がローン会社のままの場合
ローンを完済していても、自動的に車検証の所有者が変更されるわけではありません。
完済後も所有者が信販会社やディーラーのままになっている場合は、所有権解除のための書類を取り寄せ、名義変更を行う必要があります。
特に、契約から長期間が経過していると、販売店の廃業や会社の合併などにより書類の取得に時間がかかることがあります。完済が確認できたら、早めに所有権解除を申し込みましょう。

車検証の所有者が亡くなった本人の場合
銀行のマイカーローンなどでは、ローンが残っていても、車検証の所有者が購入者本人になっていることがあります。
この場合、登録上は亡くなった方が自動車の所有者であるため、相続による移転登録の対象になります。
ただし、車検証上の名義変更が可能であっても、ローンの返済義務がなくなるわけではありません。契約書に、契約者が死亡した場合の一括返済条項などが定められている可能性もあります。
したがって、所有者が亡くなった方になっている場合でも、先にローン会社へ連絡し、契約上の取り扱いを確認することが大切です。
普通自動車の相続手続きで必要になる主な書類
普通自動車を相続人名義に変更する場合、一般的には次のような書類が必要です。
- 自動車検査証
- 亡くなった事実と相続人を確認できる戸籍
- 法定相続情報一覧図
- 遺産分割協議書
- 遺言書
- 相続人の印鑑証明書
- 委任状
- 車庫証明書
- ナンバープレート
実際に必要な書類は、遺言書の有無、相続人の人数、管轄変更の有無などによって異なります。
なお、自動車の価格が100万円以下であることを査定書などで証明できる場合、「遺産分割協議成立申立書」という簡易な書類を利用できることがあります。
ローン中の自動車を売却したい場合
自動車を使用する相続人がおらず、売却や下取りを希望する場合も、車検証上の所有者を確認します。
所有者がローン会社の場合
所有権留保が付いている自動車は、相続人が勝手に中古車店へ売却することはできません。
ローン会社へ相談し、一般的には次のいずれかの方法を取ります。
- 残債を一括返済して所有権を解除する
- 買取代金で残債を精算する
- ローン会社に車両を引き取ってもらう
- ローン会社の承諾を得て売却する
売却代金よりローン残高の方が多い、いわゆる「オーバーローン」の場合は、不足額を別途準備しなければ所有権を解除できないことがあります。
普通自動車は相続と第三者への移転を同時にできる場合がある
「亡くなった方の名義から、いったん相続人名義に変更しなければ売却できない」と考えられがちですが、普通自動車については、相続手続きと第三者への名義変更を同時に申請できる場合があります。
国土交通省の案内でも、相続関係書類と譲渡証明書などをそろえ、相続と第三者への移転登録を同時に行う手続きが示されています。
ただし、所有権留保が付いている場合は、先にローン会社の承諾や所有権解除が必要です。
中古車の査定は早めに行う
中古車の価格は、年式だけで決まるものではありません。
車種、走行距離、ボディーカラー、事故歴、モデルチェンジ、中古車市場の需要などによって大きく変動します。時間の経過によって査定額が下がることもあるため、売却を検討している場合は、早めに査定を受けることが大切です。
ただし、相続放棄を検討している段階で売却してはいけません。
自動車ローンを引き継ぎたくない場合は相続放棄を検討する
ローン残高が自動車の価値を大きく上回っている場合や、ほかにも多額の借金がある場合は、相続放棄を検討することがあります。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとして扱われ、亡くなった方の借金を原則として引き継ぎません。
ただし、自動車ローンだけを放棄し、預貯金や不動産だけを相続することはできません。
相続放棄をすると、ローンなどのマイナス財産だけでなく、預貯金、不動産、自動車その他のプラス財産もすべて相続できなくなります。裁判所も、相続放棄は被相続人の権利と義務を一切引き継がない手続きと案内しています。
相続放棄には3か月の期限がある
相続放棄は、原則として、自分のために相続が開始したことを知った日から3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
財産や借金の調査に時間がかかる場合は、3か月以内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法もあります。
相続放棄を検討中なら車を売却しない
相続財産である自動車を売却したり、自分のものとして処分したりすると、相続を承認したと判断され、相続放棄が認められなくなる可能性があります。裁判例でも、相続財産の売却が法定単純承認に当たると判断された例があります。
相続放棄を検討している場合は、次の行為をする前に専門家へ相談しましょう。
- 自動車を売却する
- 廃車にする
- ローンを自己資金で返済する
- 長期間自分の車として使用する
- 名義変更をする
単なる保管や価値を維持するための行為と、相続財産の処分に当たる行為との判断は、個別の事情によって異なります。
普通自動車と軽自動車では手続き先が異なる
普通自動車の相続による移転登録は、運輸支局または自動車検査登録事務所で行います。
一方、軽自動車の名義変更は、軽自動車検査協会で行います。軽自動車の所有者が亡くなった場合は、亡くなった事実と新しい所有者が相続人であることを確認できる戸籍や法定相続情報一覧図などが必要です。
また、軽自動車についても、所有者と使用者が異なる場合は、販売店やローン会社の同意を得たうえで手続きを行う必要があります。
必要書類や申請方法が異なるため、普通自動車か軽自動車かを確認してから準備を進めましょう。
ローン中の自動車を相続するときのチェックリスト
手続きを始める前に、次の資料や情報を確認しておくとスムーズです。
- 車検証と自動車検査証記録事項
- ローン契約書
- 返済予定表や引落口座
- 現在のローン残高
- 車両の査定額
- 自賠責保険と任意保険
- 自動車税の納付状況
- 遺言書の有無
- 相続人の範囲
- 自動車を引き継ぐ人
- 相続放棄の予定の有無
自動車の所有者が変更された場合、普通自動車では原則として15日以内に移転登録を行う必要があります。手続きを放置すると、税金やリコールの案内が届かないなどの支障が生じる可能性があります。

ローン中の自動車の相続に関するよくある質問
ローンを払えば、そのまま乗り続けられますか?
必ずしも乗り続けられるとは限りません。相続人による返済継続が認められるか、名義変更が必要かなどは、ローン会社と契約内容によって異なります。まずはローン会社へ死亡の連絡をしてください。
完済済みなら自由に売却できますか?
完済していても、車検証上の所有者がローン会社やディーラーのままであれば、所有権解除の書類が必要です。完済証明書や必要書類を取り寄せてから売却手続きを行います。
車を返却すればローンはなくなりますか?
車の売却価格が残債以上であれば精算できる可能性がありますが、売却価格が残債を下回れば不足額が残ります。返却するだけで必ずローンがなくなるわけではありません。
ローンだけ相続放棄できますか?
できません。相続放棄は、借金を含むマイナス財産と、預貯金や不動産などのプラス財産をまとめて放棄する手続きです。
まとめ
ローン中の自動車がある場合は、最初に車検証の所有者欄を確認することが重要です。
所有者が信販会社やディーラーであれば、相続人の判断だけで名義変更や売却はできません。まずはローン会社へ連絡し、残債、一括返済、支払いの継続、所有権解除などの条件を確認しましょう。
一方、所有者が亡くなった方本人であれば、相続による名義変更が必要です。ただし、ローンの返済義務については契約内容を別途確認しなければなりません。
ローンを含めて相続したくない場合は相続放棄も選択肢になりますが、原則3か月という期限があります。自動車を売却・廃車する前に、相続財産と債務の全体を調査し、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・ 中瀬雄太です。
相続や家族信託の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。
はじめまして、司法書士の中瀬です。
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