そもそもなぜ預貯金が凍結するのか?

銀行の預貯金の預け入れや引き出し、振込、解約などの手続きを行うには、本人に判断能力がないといけません。なぜ、判断能力が必要かと言いますと、これらの銀行での手続き行為も法律行為にあたるからです。日本では法律行為を行うには本人に判断能力が求められます。きちん自らの意思表示で判断できる状態でなければ後で無効になる可能性があるのです。

そのため、そのような曖昧な状態で取引をさせるには銀行にリスクがあるのです。つまり、認知症などによって親の判断能力が低下してくると、銀行でのあらゆる手続きを親自身が自分で行うことが難しくなってきて、預貯金が凍結するリスクが出てきます。これらの手続きはたとえ同居のご家族であっても本人の代わりに手続きをすることはできません。

このあたりを軽くお考えのお子さんも多いですが、これはつまり親がこれまで老後のために蓄えてきた預貯金を老後のために使うことができなくなる事を意味します。親の預貯金が使えないということは、今後の生活資金に影響が出ますし、周りのご家族の生活にも大きく影響が出てきてしまうのです。

預貯金はいつ凍結するの!?

預貯金んが凍結する理解ができたところで、いつ預貯金は凍結するのでしょうか?認知症などによって判断能力が低下したからといって自動的に預貯金がと受けることはありません。その情報を銀行が知るはずもないからです。いくら情報網が強い銀行といえど、判断能力の低下の有無をすぐに把握することは不可能なのです。

そのため、あくまでその事実を銀行などの金融機関が認識したタイミングで凍結するということになります。ようするに窓口で銀行員と接触するタイミングが最も多いでしょう。たとえば、通帳やキャッシュカードを紛失したときや、暗証番号を忘れてしまったときに、本人の代わりにお子さんが来店した際に銀行がその事実を把握することもあります。また、本人が預貯金を窓口に下ろしに来店した際に、会話の感じから不審に思うこともあるでしょう。

預貯金が凍結した後は、成年後見しか手段がない

いったん預貯金が凍結してしまうと、後でとれる手段としては成年後見制度を利用するしかありません。

成年後見制度とは

子供がキャッシュカードで引き出しちゃダメなの?

仮に親の預貯金が凍結したとしても、事前に暗証番号を聞いておけば、キャッシュカードを使って子供がATMから預金を引き出したり、振込をしたりすることができるのではと思われるかもしれません。たしかに、その通りではあります。暗証番号を知っていれば誰でも預貯金をおろすことができますが、この方法はあまりお勧めしません。理由は大きく分けて2つあります。

預貯金は本人以外が下ろせないルールがある

キャッシュカードは原則として本人以外の利用が認められていません。いくら家族の方であっても本人以外の人が利用するのは、銀行のキャッシューカード規定の違反に当たります。銀行からすれば、本人以外の人にお金を渡したことになってしまいます。

後の相続トラブルの原因になる可能性がある

もう1つは、親が亡くなった後の相続トラブルの原因になる可能性があるということです。ある一定の相続人が生前に多額の預貯金を下ろしていると、相続の際に他の相続人との遺産分割の協議の際に横領などを疑われてトラブルになりやすいです。

預貯金の凍結はいつから解除される?

一度凍結してしまった預貯金はいつ解除されるのでしょう?まさか、もう2度と預貯金をおろすことができなくなってしまうのでしょうか?

まず1つ目としては成年後見制度を利用した際には、凍結が解除されます。今後は、裁判所から選ばれた成年後見人が裁判所の監督下の元で預貯金を管理していきます。

成年後見制度を使用しない場合は、凍結した財産の名義人に相続が発生して、その手続きが終わるまでの間は凍結の状態が続くことになります。もちろん、判断能力の低下が一時的なものであった場合など、判断能力が回復すれば相続発生する前でも預貯金の凍結が解除されることはあります。ただ、現在の医学では一度認知症と判断された後に、治療などで判断能力が以前のように回復するという見込みはかなり少ないと言えます。

親の預金を子供が下ろすのがなぜダメなのか?

一見すると、親の代わりに子供が預金を下ろすだけの行為がなぜ、そんなにいけないことなのか、銀行は頑なに拒むのか疑問に感じる方も多いでしょう。本人のためにやむを得ず行っている行為なので、自分のために横領しているわけではないし何も問題ないようにも思えますよね。

しかし、銀行側にもそれなりの事情があるのです。銀行にはお客様の預貯金を様々な弊害から守るために常に本人確認や意思の確認というのを行う義務があります。銀行の窓口で本人確認を求められた経験がある方も多いのではないでしょうか。

認知症などによって判断能力が低下し、ご自分の意思で手続きができない場合に、これらの確認を行うことが難しいのです。そのため、成年後見制度を利用して後見人が選ばれるまでの間は、一旦口座を停めておくという手段をとるしかないのです。

判断能力が低下している状態で、預貯金の手続きを進めた場合、後で銀行側が責任追求されるというリスクもあります。すでに判断能力が失われている状態で、預貯金の引き出しに応じてしまった場合、後の相続の際に相続人から取引の無効を主張される可能性もあるのです。

親が元気なうちに口座を管理しておく

複数の金融機関に口座を所有していると、それぞれの金融機関で手続きを進めていかなければならず、手間も労力もかかります。そのため、親が元気なうちに、家から最寄りの金融機関に口座をまとめておくのが便利です。口座の数は少ない方が後から管理が楽になり、相続発生後も手続きをまとめて行うことができるようになります。

また、ペイオフ(もし金融機関が破綻したときに預金等の一定額しか預金保険の対象として保護されないこと)対策として決済用普通預金に口座を切り替える方法を考えてみてもいいでしょう。決済用普通預金だと利息がつかないというデメリットもありますが、万が一の際には預金が全額補償されるので安心できます。

まとめ

今後高齢化社会がますます進むにつれ、認知症や高齢者を狙った詐欺、横領などの様々な問題に銀行は対応していかなければなりません。そんな中で顧客(お客様)とどのように取引を継続していくのかというのは、とても大きな課題になっています。

認知症などによって財産が凍結してしまった場合に、周りのご家族にとって最も困るのが親の預金が使えなくなってしまうことです。今後の医療費や、介護施設の利用料、介護費用などの多額の費用をどこから工面しようかと頭を悩ませることになります。多くのご家庭の場合は、親の預金から工面していこうと考えているケースが多いのでいざ凍結してしまうと本当に困ってしまうのです。

預貯金が凍結した後で取れる手段としては現時点では、成年後見制度しかありません。成年後見制度を利用する理由として最も多いのが預貯金の管理や解約のためです。

しかし、親の預金を下ろすためだけに成年後見制度を利用することはご家族にとっては一定の負担がかかるのも事実です。成年後見人への毎月の報酬もありますし、財産も自由に処分したりすることが難しくなります。そのため、親の預金を下ろすためだけに成年後見制度を利用するのをためらう人も多いのが実情です。

認知症対策のあれこれ

記事監修者

ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
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はじめまして、司法書士の中瀬です。
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