この記事では、実際に起こりえる遺産分割の失敗事例をご紹介します。
1.遺産分割の失敗例(2次相続編)
たとえばこんなケースを想定してみてください。
【登場人物】・父(被相続人) ・母 ・長男 ・次男
父が20年前に亡くなり、当時父は遺産として長男夫婦と同居していた実家の不動産3000万円と、現預金3000万円を遺してくれた。。父が亡くなった際の葬式のときに、相続についてどうするか兄弟で話し合いをしたところ、弟達は「お金は全部母親がもらって老後をゆっくり暮らせばいいと思う、兄さん達は父の面倒を一緒に住んでみていてくれたから実家は兄さんたちがもらえばいいんじゃない」と言ってくれた。内心、その言葉を聞いたときはホッとした。
ネットで調べてみると相続財産の価格も相続税の基礎控除の範囲内だから、相続税もかからないし、特に遺産分割協議書もつくらず、不動産の名義変更もそのままにしていた。
そして月日が流れ、先日母が亡くなった。母には年金の収入があり、それだけで生活のやりくりができていたため、父からの相続した3000万円はほとんど手を付けずに通帳にそのまま残っていた。
母の葬式の席で弟夫婦と何年かぶりに顔を合わせたときに、弟から思わぬ言葉を言われた。「実はうちも子供が大学に進学でお金がかかって困ってるんだよね。だから母が持っている父からの遺産を早めに分割してもらいたいんだ」と少し強めに主張してきた。
そこで、長男は「実は母は認知症がどんどんひどくなっていって介護がとても大変だった。嫁にもなにかと苦労をかけた。介護などをして面倒を見た場合、本来もらえる法定相続分とは別に寄与分ってのがもらえるらしいんだけど、まぁ今回は寄与分は考慮せずに、みんなで平等に3分の1ずつで分けようか」と提案した。
すると弟たちは「実家は兄さんにあげてもいいよ、でもその代わり母が残した3000万円は俺たちで半分ずつもらうよ。俺たちは本来は実家も含めたらそれぞれ2000万円ずつもらう権利があるんだから」と言ってきた。
長男は、「父の相続はすでに終わってるんだし、そのときに実家は俺がもらってるんだから、母の相続とは全くの別もんだろ、そもそも父の相続の時に実家は俺がもらっていいって言ってたじゃないか」と言い返した。
さらに弟たちは「父のときに遺産分割協議書だってちゃんと作ってないだろ?、兄さんが3等分って言い張るなら家の名義変更の書類には一切ハンコ押さないからね!それでもいいの?」と言ってきた。
私達夫婦としては、ずっと住み続けてる実家をもらえないとなると大変だと思い、母の遺産は全て弟たちがもらうことで話をつけた。だけど内心は到底納得がいかず、心にはモヤモヤが残ったままだった。その後、弟たちとは一切連絡を取らなくなってしまった。
2.今回の失敗したポイント3つ
- 父の1次相続の時に口約束だけで済ませてしまい、遺産分割協議書をちゃんとつくらず、名義変更をせず放置したこと
- 弟たちが1次相続と2次相続は全くの別問題であることを認識していなかったこと
- 信頼できる家族だからと安心しきっていた。家族といえども時の経過とともに心変わりをする可能性があることを考えていなかったこと
3.遺産分割の注意点
3ー1 2次相続でトラブルが発生するケースがある
父の1次相続のときは、母がいるためそのまで揉めることなくスムーズいくケースが多いのですが、母が亡くなった後の子供達だけで行う2次相続の話し合いでは、揉めるケースが非常に多くなります。1次相続と2次相続では、まったくの別問題ですが、1次相続で満足いく財産をもらえなかった相続人が2次相続の時に不満を爆発させることがあります。
大人になると兄弟姉妹が疎遠になることも珍しくなく、そういったケースでは余計に揉めやすいので、普段からコミュニケーションをとっておくのも大事です。
また、平成27年の相続税の基礎控除の引き下げにより、相続税の申告対象となる家庭が増えたため、それも原因となっています。1次相続の時は基礎控除以下だったから遺産分割協議書も作成せずにいたが、2次相続の時は相続税の申告が必要になり、問題が表面化してきます。
3ー2 家族でも時間の経過とともに心変わりすることもある
相続というのは、誰もが初めてのときは何も分からず、なんとなく過ぎていくこともあります。特に1次相続のときは母親が生きているので基本的には母親に多くの財産を譲るという流れで話がまとまることも多いです。1次相続のときは問題なく話がまとまったからと言って、家族を信頼し、遺産分割協議書もつくらず、不動産の名義変更もせず、そのまま時の経過とともに心の変化が訪れ、話し合いの結果、それまでの内容がひっくり返されてしまうこともあります。
特に配偶者ができると、その配偶者の意見により考え方がコロッと変えられてしまうこともあります。特に嫁が強いケースにはよくあります。1次相続と2次相続は本来は別問題なのですが、1次相続で話がまとまった手続きを終えていないと、2次相続の時に財産を有利に取得するための手段として悪用されてしまうことがあります。
しかも、兄弟姉妹の関係性が悪化してくると、感情論になり話が一向に進まず、相手も意地になって永遠に不動産の名義変更のためのハンコをもらうことができなくなる可能性もあります。最悪の場合、裁判所を通すことになったり、ハンコ代を要求されたりと、仲の良かった兄弟姉妹が相続が原因で疎遠になってしまうなんて悲しい結末を迎えることにもなりかねません。
遺産分割の話し合いがまとまったら、気が変わる前にしっかりと遺産分割協議書を作成しておくことが重要です。
場合によっては、長男が一歩引きさがることも大事です。今回のように長男は一緒に住んで介護をしてきたため、寄与分を主張して1次相続で多くの財産をもらいたい気持ちは分かりますが、1次相続で多めに財産をもらった場合には、2次相続では次男たちに少し多めに財産を与えることも、今後のお互いの関係性を良好に保つためには重要なポイントです。特に3人、4人兄弟は揉めやすいので、お互いの譲り合いの精神が大切です。
当事務所では、遺産分割のご相談や、遺産分割協議書の作成を行っております。将来の2次相続のことも踏まえた遺産分割についても最適なご提案をさせていただきます。お気軽にお問い合わせください。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
相続の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。
はじめまして、司法書士の中瀬です。
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