揉めない相続や、長期化しない相続をするには「遺言書」を書くのが最も一般的な方法です。遺言書がないと相続人同士で遺産の分割について話の折り合いがつかないと相続手続きが長期化してしまいます。
しかし、遺言書があれば誰に財産をどのくらい与えるのかをいったメッセージを分かりやすく残すことができますし、遺言書の力はとても強力で相続人たちも基本的には遺言書に逆らうことはできません。
しかし、その一方で遺言書があれば絶対に大丈夫かといえばそうとも言い切れません。
遺言書でも手出しできない権利とは?
多くの方は、遺言書があれば大丈夫だと安心します。実はここには1つだけ大きな落とし穴があります。遺言書があっても完全に自由に財産を分けることができるわけではありません。
「遺留分」という制度をご存知でしょうか? 聞いたことがある方もいれば、初めて聞く方も多いかもしれません。相続の専門家でない以上、相続というのは人生の中で何度も経験するものではありませんので、難しい専門用語は無視してもらって大丈夫です。だだし「遺留分」を除いては。遺留分という言葉は、相続を進めるうえで非常に重要度の高いキーワードです。
遺留分とは、「残された相続人たちの今後の生活をある程度保証するために、必要最低限の金額は必ず相続できますよといった権利」のことです。この権利だけは、遺言書をつかっても妨害できません。
遺留分は相続人に与えられた強い権利である
遺留分というのは、残された相続人たちに与えられた物凄く強い権利です。たとえば、父親が亡くなって相続人が妻と子供2人といったケースを相続してみてください。
父親と長男は仲が悪くていつも喧嘩ばかりしていました。そこで父親が生きてるうちに遺言書に「妻に財産の全部を相続させる」とか「長男には一切財産は与えない」と書いたとしましょう。
長男が、「うん、別に親父の財産なんか1円たりとも欲しくないから、好きにしていいよ」と言えば相続としては何の問題もありません。しかし、長男が「ちょっとまて、俺に全く遺産を残さないなんて納得いかない、俺には遺留分があるんだ。だから俺にも遺産をもらう権利がある」と言ってきた場合には長男は遺留分によって最低限保証されている遺産の額を相続することができます。
遺留分というのは権利なので、何も言わなければそのまま何も起きません。あくまで自分から主張して初めて利用することができます。ようするに遺留分を主張するもしないも個人の自由ということです。
遺留分には最低保証金額が決まっている
遺留分の保証額はそれほど難しくはありません。単純に法定相続分の半分です。つまり、妻と子供1人が相続人の場合は、子供の法定相続分は2分の1なので、そのまた半分の4分の1が子の遺留分ということになります。妻にも同じことが言えます。
1つだけ例外として直系尊属(被相続人よりも上の世代)のみが相続人となった場合のみ法定相続分の3分の1となりますが、あくまで例外的なケースなので覚えなくても問題ありません。
もう1つ遺留分のポイントとしては、兄弟姉妹には遺留分がありません。ゼロです。理由としては、亡くなった方と兄弟姉妹は別に生計を立てていることが一般的ですので、たとえ遺産を全く相続できなくても生活には困らないでしょうという考え方です。兄弟姉妹も法定相続人になる可能性はありますが、遺留分に関しては一切認められないので注意が必要です。
相続人 | 相続分 | 遺留分 | |
第一順位 の相続人 | 配偶者 子供 | 1/2 1/2 | 1/4 1/4 |
第二順位 の相続人 | 配偶者 父母 | 2/3 1/4 | 1/3 1/6 |
第三順位 の相続人 | 配偶者 兄弟姉妹 | 3/4 1/4 | 1/2 なし |
遺言書の書き方には注意が必要
ここまで遺留分のお話をしてきましたが、実は遺留分という制度は奥が深い部分もあります。実際に遺留分を侵害された場合に、侵害額の請求をしていくときの侵害額の計算方法などはけっこう複雑です。揉めているケースも多いので、場合によっては裁判になることもあります。
この記事で最もお伝えしたかった大事な知識としては、「遺言書があれば自分の思い通りに財産を分けることができるが、遺留分だけはどうしようもない」ということです。
遺言書は揉めない相続をするにはとても大事ですが、遺言書をしっかりと作ったとしても内容が遺留分を侵害するような内容であれば、かえって争いのきっかけになってしまうこともあるのです。
遺言書を書く際には、そのことも踏まえてじっくり検討されることをお勧めします。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
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