相続登記が義務化されたことで、相続登記の関心が高まってきています。相続登記を司法書士に頼まずご自身で行いたいという方もいらっしゃいます。実際に相続登記は一般の人でも時間と労力をかけて何度も何度も法務局に足を運べばできなくはありません。
ただ、遺産分割協議書の作成や戸籍の読み取りなどにいくつか注意点もあり、大きな落とし穴もあります。今回は、相続登記を自分でやった場合のリスクと注意点をお話しします。このサイトは、相続登記の申請をご自身でやることを否定する趣旨ものもではございません。自分でできる方はコストも抑えられるためぜひ挑戦してみてください。
過去の戸籍もまとめて取得しないといけない
被相続人の戸籍を取得する際には、現在の新しい戸籍のみを取得すればいいわけではなく、生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を遡って取得する必要があります。
なぜかというと、生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を集めないと、過去に子供や妻が何人いたのかということが正確に確定できないからです。嘘みたいな話ですが、現在の相続人が全く知らないところで隠し子がいたというケースも少なからずあります。前妻との間に子がいる場合は、新しい現在の戸籍にはその子のことが載っていないケースもあります。
令和6年から戸籍実務の改正により、戸籍の取得が簡素化されますが、司法書士等の専門家以外の方は戸籍を読むことに慣れていません。戸籍はただ取得すればいいわけではなく、しっかりと読み解くスキルも必要です。銀行などに提出した段階で、隠し子や養子の存在を指摘されるケースもあります。また、昔の戸籍になると、文章が手書きで書かれているので解読するには、法律知識とある程度の経験が必要になります。
司法書士が戸籍を取得しても解読するまでの実務はかなり大変なものです。自分で戸籍収集を行なった場合にはまず最初に当壁は戸籍の解読になります。シンプルな相続でしたら、戸籍の数もそれほど多くはないですが、兄弟姉妹の相続等になると、戸籍の量も膨大になり、訳が分からなくなり混乱することも多いと思います。
相続人の判断を正確にする必要がある
配偶者やお子さんのみのシンプルな相続登記であれば、相続人が誰になるかは容易に判断できます。しかし、兄弟姉妹の相続登記や数次相続の相続登記で、相続人の1人がすでに亡くなっていて、その子供が相続人になっているなど、世代をまたいで相続が発生しているようなケースではとても慎重な判断が求められます。
この相続人の判断を間違ってしまうと、相続登記はほぼ1からやり直しとなってしまいます。なぜかというと、申請書の記載内容が違うのはもちろん、遺産分割協議への参加者が間違っていることになるため、遺産分割をやり直す必要が出てきたりするからです。
全ての遺産を調査しないといけない
相続が開始した場合に、まずやるべきことは相続人の把握と、遺産の調査です。相続財産を調査するにあたって全国のどこに、どの不動産があるのかを調べる必要があります。田舎にある農地や山林も相続登記義務化の対象となるため、漏れがないようにしっかりと把握した上で、遺産の分け方をどうするかを決めることになります。
実家の前の道路部分の相続登記を忘れてしまったり、マンションの付属部分である管理人室やポンプ室の登記を忘れてしまったりすることもあります。
また、遺産分割が終わった後に公正証書遺言があることが分かって遺産分割のやり直しになることもあります。遺産分割に期限はないため、数年後に新たな遺産が見つかって改めて相続手続きをするのは大変です。あらかじめ司法書士に遺産調査も含めて依頼した方が明らかにリスクが少ないと言えます。
相続登記してないことに気付かないケース
実家の前の道路部分の相続登記をし忘れてしまったりすると、ただ事では済まないケースもあります。たとえば、数十年後に売却を試みたときに、道路の相続登記を忘れていて、道路部分だけが祖父母の名義のままになっていた場合、相続人が数十人にわたっていてその全員から実印をもらうことになったりと大変骨の折れる作業が必要になることもあります。
この辺が実は自分で相続登記をする場合の1番のリスクと言っても過言ではありません。相続登記を忘れたために、後から思うように手続きが進まいなんてこともよくあります。
遺産の分け方を決めるときのリスク
いざ、不動産を含めた遺産を分けようと考えたとき、単純に配偶者が取得した方がいいのか、将来のことを考えて子供が取得するのかなど、いくつかの疑問が出てきます。
- 売却目的で相続登記をする場合、誰の名義にするべきか?
- 税務上のことも考えた上で、遺産分割をしたり、文章を考えたりする必要がある。
- 次の代の相続のことも考えた、遺産分割ができているか?
- 遺産の取得者を1人に集中させて代わりに、その人から現金を受け取る場合に、贈与とみなされないようにどうすればいいか?
- 相続税を少しでも抑えるための遺産分割ができているか?
ただ遺産を分けると言っても単純ではありません。不動産だけでなく、遺産の全体を考慮した上で法務上の面でも税務上の面でも不利益を受けないような分け方をするのが理想です。このような判断をミスすると、数年後に大きな損失になる可能性もあります。専門家に相談せずネットの知識や、自分だけで判断したことで、かえって費用が増大してしまうリスクがあるのです。
法務局に何度も足を運ばなければいけない
自分で相続登記をする場合、まず法務局の予約相談を行なって、そこから実際に書類を集めたり、作成したりして何度か平日に法務局に足を運ぶことになります。聞いた話によると多くの場合、一般の方が自分で相続登記をするケースでは5回〜7回ほど法務局に足を運ぶケースも少なくないそうです。
それにはいくつか理由があり、登記手続きというのは非常に細かい手続きで、文字の一字一句のミスも補正の対象になります。斜線で訂正などは当然できませんし、法務局側が直してもくれません。もちろん、申請時にその場で添削もしてくれません。
司法書士は毎日のように細かく登記の書類をチェックして作成していますが、それでもミスはや漏れはどうしても生じてしまいます。登記の手続きに慣れていない方が、相続登記の申請をした場合おそらくかなりの数のミスが生じると思います。他にも、添付書類の不足や登録免許税の計算などで、何度か法務局に足を運ぶことになるのだと思われます。
冒頭でもお話ししたように相続登記は時間と労力をかけることで自分で行うことも十分可能です。弊所にご相談に来られた方の中にも自分で相続登記を行なった方もいます。
ただ、上記でも挙げたように相続の裏には様々なリスクが隠れていたりします。登記手続き一つとっても実は単純なものではないのです。そのようなリスクも踏まえた上で、判断していただければと思います。
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記事監修者
ローワン綜合法務事務所の司法書士・行政書士 中瀬雄太です。
相続の豊富な経験を活かし、皆様のお悩みに寄り添います。
はじめまして、司法書士の中瀬です。
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